日本人にとって木材は、おそらく,毎日の暮しのなかで最も手になじむ素材であり、今後も利用し続けるでしょう。
生物材料としての木材には、すでに見る触るだけでも ぬくもりが伝わりますが、さらに自在に曲げられるようになったらどうでしょう。
木材を熱湯や,薬品につけて、曲げるのではなく,生きているスギやヒノキが持っている能力を最大限に活かして曲げて、もっと、みぢかな存在にしたい。
「曲がるスギ材」 はそんな考え方から生まれました。
スギ材は真直ぐだから美しい、かちっと組んでいくという概念から、曲がって美しい,曲げて楽しいという、完全に新しい素材になり、しかも、煮沸したり、スチームしたりしてないので、色は美しいまま、香りはよいまま、スギ材の利用用途や、デザインの多様性に 対応できるようになりました。
より多用途なのに「曲げられるスギ材」は,人類がこれまで作った中で,最も安く,最も長い長さで「曲げられる 無垢の スギ材」です。
私たちは最初から建築用材への対応を念頭にいれていました。建築用材なら,日本各地の人工林で成熟した大量のスギ材に 高い付加価値をつけ,多くの消費を生むことができます。
直線で構成された「家」に住む 動物 は人間くらいでしょう。事実 家庭で使っている 直線・平面的な構造材よりも湾曲材は強度をあげるためにも好都合です。
従来の工法では,直線や平面をつなぐ際に 高度な接続技術を使用し,重くなりますが,カーブをもった構造材では,柱と壁が統合されます。 湾曲構造材の画期的な性質のひとつです。
かつて,日本列島は「いきものたちの森」で覆われていました。森の中では生物達が「殺しあい」「切り詰めて」「助け合い」「逞しく生きて」きました。これらのエネルギー循環や物質循環により,絶妙なバランスが保たれていました。
ところが,国土の70%を占める森林の8割以上が人工林(二次林を含む)に姿を変えました。その殆どがスギやヒノキなど住宅に使いやすい針葉樹を植林した「畑」です。
畑では,土壌が増えずに痩せる一方で,雨水 を蓄えることができません。ひとたび大雨が降ると根こそぎ流動します。大量の流木が被害を拡大させます。花粉被害も ニホンジカ被害も。終息の見通しがたちません。
そこで,日本各地の人工林で成熟したスギ材を 建築用材として利用し、できることなら少しずつ生きものが集う森にかえしたいと考えたのです。
「曲げられるスギ材」は,曲げるからと言って,曲げわっぱのように,木目が細かくきれいに並んだ,高級な「天然スギ」を使う必要はありません。 間伐材でも、節が入った材料でも曲げていきます。
これまでの歴史のなかで、堂々と 節 が入っている曲げものはなかった,究極のエコと 付加価値を 追求したのです。
生きた細胞の伸縮力を 潜在的な能力として引き出し,それを新たな形状とするという発想から,節やあて材も使うことができたのです。
「曲げられるスギ材」この発想は、実に「当然」だったから、気づかなかった大きなポテンシャルを持っています。
私たちの生物を見つめるアイディアは、ここまでシンプルでここまで扱いやすいのに、ここまで可能性のある素材を作ったのです。
荒井 一成
https://sites.google.com/view/nekkon-na-mori/曲がるスギ材/私たちの想いまとめ